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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 『虎と竜』発売記念SS

『虎と竜 ~灼熱の純情と冷徹な慾情~』が発売となりました。
一部書店様では発売日が前後しています

虎と竜 灼熱の純情と冷徹な慾情 (アズ文庫)虎と竜 灼熱の純情と冷徹な慾情 (アズ文庫)
(2014/03/31)
四ノ宮慶

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発売記念……というのもちょっと変なんですが、以前SSブログの方で公開していた関連SSを加筆修正しました。
サブキャラの泰三と結城のお話です。
ネタバレを含みますので、本編読了後にご覧ください。


「ちょっとだけ、悔しい」

 泰三は自身の身長に、少しだけだがコンプレックスを持っていた。
 今どきの成人男性の平均身長に届かない身の丈のせいで、中学生の頃から異性にモテたためしがほとんどない。友だちにも「チビチビ」と揶揄われ続けて大きくなった。
 いや、身長のことだけが原因ではないと分かっていたが、女子だけでなく周囲の人間とどうにも上手くやっていけなくて、14歳の頃にはすっかり世を拗ねていた。悪さを覚えはじめた頃にハマったシンナーのせいで、今でも泰三の歯はぼろぼろだ。
 そして学校に通うのも面倒になってふらふらしていたところを、今は破門解散となった松代組に拾われたのだ。
 身長は平均以下のままだが、決して顔の造作は悪い方ではない。
 しかし、染み付いたヤンキー臭とぼろぼろの歯のせいで、初対面の人間は泰三にあまり良い印象を持たない。
 そんな泰三がある日突然、松代組を吸収するような形で立ち上げられた関東藤森組で、いきなり若衆頭という立場に据えられた。おまけにフロント企業の【取締役室長】という役職まで与えられてしまったのだ。
 ちなみに、泰三が命を賭けてついていくと決めた兄貴分の新條は、組長補佐兼取締役専務となっている。
 その新條ですら敵わないと見込んだ男  藤森虎徹が、何を考えて学も知性もない二十歳そこそこの自分に、こんな大役を与えたのか、泰三はいくら考えても分からないままでいた。
「やっぱ、変ッス」
 着慣れないスーツに身を包んだ自身の姿を鏡に映して、泰三はため息を吐きながら呟いた。
 関東藤森組が立ち上げられて数ヶ月。
 フロント企業であるウィスタリアコーポレーションが企業して、ほぼ同じ月日が過ぎているというのに、泰三は未だにスーツ姿の自分に馴染めないでいる。
 組長、そして社長である藤森が見繕ってくれた上質なスーツを着ているにも関わらず、やはり泰三の姿からは消しきれない悪ガキ振りが見え隠れしていた。
 おまけに、子供に無理矢理スーツを着せているように見えるのが、泰三にはどうしようもなく気恥ずかしい。
 せめて、あと10センチだけでも、身長が高かったらなら……と、泰三はまたひとつため息を吐いた。
「自分でそう思うから、いつまでたっても身につかねぇんだよ」
 低く抑揚のない声で告げたのは、どういう訳だか泰三のことを好きだと言ってくれた、結城だ。
 結城は藤森の付き人で、とあるしのぎをきっかけに、泰三と想いを通じ合うようになった男だった。
「結城さんは……そりゃ、格好良いからいいッスよ」
 泰三が恨めしげに結城を見上げると、結城はサングラスの下の目をそっと伏せた。
 結城は、泰三よりも30センチほど上背がある。
 もとはアメリカンフットボールの選手で、一通りの格闘技を嗜む体躯は見るからに屈強だ。泰三と比べると大人と子供のように体格に差がある。
 そんな巨躯の結城に、泰三は自身の抱えているコンプレックスなど理解できやしないだろうと思った。思わず手で撫でたくなるくらい奇麗に剃り上げられた結城のスキンヘッドの頭頂部を、泰三はベッドにいるときぐらいしか見下ろす機会がない。
「組長……じゃねぇ、社長なんか、いまだに『馬子にも衣装だ』って、笑うし……」
「悪気はないんだ。お前がかわいいから、揶揄いたくなるんだろうよ」
「……別に俺、前みたいに気楽な格好で構わないんスけどねぇ」
 夏場は派手なアロハシャツを着るのが、泰三の小さなこだわりだった。
 松代組の下っ端だった頃を、泰三は少しだけ懐かしく思う。
「そうもいかねぇだろうが。取締役室室長がアロハに白スラックスじゃあ、他の社員がドン引く。外にも示しがつかない。結果……社長は勿論、新條さんにも迷惑をかける」
 結城のもっともな言葉に、泰三はぎゅっと唇を咬んだ。
「お前が思うほど、悪くはない。藤森社長の見立ては確かだし、本当に……お前によく似合ってると思うよ」
 慰めるような結城の言葉を、泰三は嬉しく思う反面、気を遣わせてしまっているのだと切なくなる。
「それに、お前だっていつまでもガキじゃないんだ。与えられた仕事に責任を持つ必要がある。社長も新條さんも、お前を認めているんだ。大人になれってことだよ」
「分かってる。……分かってるッスよ、そんなこと」
 ネクタイの微妙なゆがみを直しながら、泰三は吐き捨てる。
 やっぱり、俺なんかの悩みは、結城さんみたいな人には分かりゃしない  
 チビの悩みはチビにしか理解らない。
 結城の優しさを知っているから、余計に泰三はちょっと悔しかった。
 悔しさと哀しさの入り混じった感情が、泰三を包み込んでいた。


初出 2009.4.6 
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