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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 冬コミ(C85)配布ペーパーSS

『詩人と僕』※『准教授と依存症の彼』の元ネタの元ネタです。

「……ど、どうしたんだ?」
「お前、物書きの端くれなら、紙とペンぐらいは手の届くところへ置いちょけ。そんなだから、お前の書くものはつまらんのんじゃ」
「紙なら、そら……、文机に原稿用紙がいくらでも……」
 いつもの悪態に胸の底では歯噛みするほどの痛みを感じながら、僕はさも平気そうな顔をして、心の中で溜息を吐く。
 窓から漏れ入る月明かりを頼りに、文机に向って背中を丸めているのを見つめながら、僕はいつもの詮無い感情を噛み締める。
 嫉妬、羨望、それに附随する、独占欲。
 恵まれた感性とその才能を欲して、僕は彼の隣にいる。
 彼が求めるのは、僕の金と家と酒と食事。
 そして、布団と温もりだ。
 僕は彼がそれを求めていやらしい笑みを浮かべて訪ねて来る度に、反吐を吐きそうになりながらも、歓喜する。
「ダメだ……っ! こんなんじゃないのにっ」
 彼の苦悩する姿に、僕は欲情する。
 彼が心の底から求めるものは、この世には存在しないものだ。
 言葉というものに限界を感じ、それ故に沸いて溢れる詩情を表現出来ない現実に、彼は喘ぐ。
 彼が認めるのは、彼の中にあるものだけがすべてで、彼の感じたものは彼の手によって文字として紡がれ、詩になった途端に、彼の求めたものとはすっかり姿を変えてしまうのだ。
 だからこそ、彼は必死になって、詩を詩う。
「くそぅっ! ……くそうっ!」
 怒りは悲しみとなって彼を包み込み、彼はその辛さに耐え切れなくなって、酒を求め、人を求める。
 情交を、求めて鳴き喚く。
 そんな彼を優越感を感じがなら抱く僕は、きっと彼の言うとおり、最低最悪の人間の部類だろう。
「○○、今夜はもう止し給え」
「うるさいっ、お前に俺の何が分かるっ!」
 酔っているときと、言葉に喘いでいるときの彼は、誰にとっても最悪の悪魔だ。
「勿論、君の痛みや苦しみを僕が理解出来るとは思わないけれど、それでも僕は、君が苦しんでいて辛いという事は理解出来ているつもりだ」
 彼の小さな躯を背中から抱き締めながら告げると、原稿用紙の上に僕の愛用の万年筆が転がった。
 そして、耳に触る盛大な溜息。
「それ、それだ。お前がつまらない物しか書けない理由は、それだ」
 ズキンと胸が痛み、頭痛がする。
「物の本質をさっぱり理解していないくせに、見た目だけでさも分かったような蘊蓄ばかりを語るから、お前の書くものは人に伝わらないんだ。目に見えるものを見えた通りに言葉をかいつまんで書くだけのお前に、俺の詩が分かってたまるかっ!」
 僕の腕にくるまりながら、彼はあのいやらしい笑みを浮かべて振り仰ぐ。
「お前の取り柄は、情交だけじゃ。セックスだけじゃ」
 ゾクリと、おどろおどろしい色の感情が、僕を突き動かす。
「ああ……きっと、△△……。お前には永遠に俺の詩は、分からんじゃろうのぅ」
 溜息に、色が混じる。艶が滲む。
 僕は、そんな○○に欲情して堪らなくなる。
 まるでそうある事が自然のような、赤子のようなこの魂。
 僕が生まれてすぐに失くしたものを、彼は今も手にして、それをこの世に表す事に苦悩して喘ぎ叫ぶ。
 言葉ではない言葉を求めて、彼は喘ぐ。
「○○……そんなに辛いのなら、いっそ詩などやめてしまえ」
 貝の形の耳に唆すように囁いて、細い首筋に唇を落とすと、彼の躯がピクリと震えた。
「……ふっ」
 花開くような笑顔に、僕は堕落する自分を認める。
「だから△△、お前は凡人なんじゃ」
「いいから、もう黙ってくれないか」
 上向いた顎を捕らえて接吻する。
 そして思う。
 ああ、きっと。
 僕は彼に魅せられて、墜ちていくのだ。
 彼の棲む世界とは別の、堕落した世界へ。
                         end 四ノ宮 慶 2013.12.30


 ※初出は多分、2007年から2008年頃。分かる人には凄く分かりやすいモデルがいます。
 ここからどうなって篠崎と舜になったのか、振り返っても「おもしろいなぁ」と思うばかり。

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