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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶のブログです。新作情報、同人活動等をお知らせしています。

2019年夏コミ(C96)無配ペーパーSS

CategoryペーパーSS
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『バンビは獅子に娶られる』『淫魔ちゃんに溺愛レッスン』クロスオーバーSS

「あの、本当にここなんですか……?」
 降り注ぐ蝉時雨の中、礼夢は隣に立つ獅央に問いかけた。
「知人の知人を介した情報でなかなか確信がもてず、私もどこかで疑っていたのですが、この古民家が話に聞いた『獣人蕎麦屋』で間違いないでしょう」
 獅央はそう言うと、玄関へ向かった。礼夢も慌てて後に続く。信州の山奥にある蕎麦屋を訪ねてきたのは、礼夢の兄・頼斗から「消えた淫魔を探せ」という依頼があったからだ。礼夢たちは人の世に紛れて暮らす淫魔で、なかでも獅央は特殊な能力をもつ上級淫魔だ。頼斗が営むホストクラブから姿を消したNO,1だったホストが、どうやらこの蕎麦屋にいるらしいのだ。
「あの、獅央さん。獣人……って」
「我々とはまた違った人間とは違う種族の末裔だ。彼らは獣の姿を本性としていてね。人との混血が進んで数も減っていると聞いていたんだが……」
 獅央が玄関の引き戸に手を伸ばした瞬間、勢いよく引き戸が開け放たれた。
 直後、礼夢は玄関を塞ぐように立ちはだかる長身に目を奪われた。中から現れたのは、ライオンの頭を持つ作務衣を着た獣人だったのだ。
「ら、らい……おん?」
 ライオンの獣人は黄金色の目を見開き、礼夢を穴が開くくらい凝視する。
 唖然となる礼夢を尻目に、獅央はクロノスリーピースに包んだ身で深くお辞儀をした。
「はじめまして、お店の主人……獅子谷哲さんでよろしいですね。私は貝村獅央です」
 すると、ライオンの獣人はハッと我に返った様子で、二人を中へを促した。
「あ、ああ。柳下から話は聞いてる。とにかく、中へ入れ。あと、悪いが淫魔の匂いは獣人には毒だ。くれぐれもフェロモンを出すなよ」
「ええ、心得ています。ですが、それはこちらも同じ。バーバリライオンのフェロモンは、人間だけでなく我々淫魔には魅惑的過ぎますからね」
 獅央に手を引かれ、礼夢は一緒に古民家へと足を踏み入れる。巨大な獣人の姿に驚くあまり、二人の会話はまるで頭に入ってこない。
「人を簡単に誑かす淫魔が、よく言う。今も、その小さくてかわい……いや。例の二人は奥の部屋だ。ウサギの親が昨夜、慌ててここに運んできた」
「仕方がありません。我々もですが、あなた方も人に紛れて生きる者が増えたせいでしょう」
 獣人蕎麦屋、というだけあって、家の中には麺つゆの匂いが充満していた。
「けれど、惹かれ合った者同士を咎めることはできません」
 獅子谷という獣人は、二人を床の間のある六畳間に案内した。
「そりゃそうだが、互いに眠りについちまったら意味がねぇだろ」
 獅子谷がすっと身体を退けると、そこには礼夢も見知ったホストの淫魔とウサギの耳が生えた可愛らしい女性が並んで横たわっていた。そして、その傍らには、作務衣を着た小柄に青年が不安そうな表情で座っている。
「千佳、淫魔たちが着いたぞ」
「こんにちは。……うわぁ、すっごい綺麗な人たちですね」
 礼夢は獅央の肩越しに、青年を見つめた。彼の頭にはライオンの耳が生えている。
「おい、千佳。ききき、綺麗って……お前、こういうのが、ここここ好みなのかっ!!!」
 すると突然、獅子谷が大きな身体を小刻みに震わせた。
「違うよ、哲さん。でも、淫魔ってみんな綺麗なんだなって思っただけだよ。だいたい、僕は哲さんとつがったんだから、ほかの人に目移りするはずないだろ」
 百獣の王が小柄な青年を前にあたふたする様を、礼夢は目を瞬かせながら見つめた。
「そうですよ、獅子谷さん。獣人が人に及ぼす影響は計り知れない。つまり、つがってしまえば、淫魔も獣化の影響を受けます」
 獅央が呆れたように溜息を吐いて、眠っている男の枕元に膝をつく。
「おそらく、ウサギの彼女は自分が獣人だと知らずに育ったのでは? そのフェロモンを浴びた彼は拒絶反応を引き起こしたのでしょう。そして、彼女は淫魔のフェロモンにあてられたのです」
「ああ。ウサギの方は母親が人間だからな。フェロモンもそれほど強くないはずだが、淫魔にはきつかったんだろう」
 獅央と獅子谷の会話から、礼夢はおおよその事情を把握した。
「もし、彼らの想いが本気なら、契りを交わし、つがえばいい。彼は淫魔としての能力を失うが、彼女と同じ時間を過ごすことができる。私の力で彼を目覚めさせ、話を聞くことにしましょう」
 すると、興味深そうに獅央の話を聞いていた千佳が感嘆の声をあげた。
「へぇ! 同じフェロモンでも淫魔のフェロモンってすごいんですね!」
「ちちちちちっ千佳! お、俺のフェロモンだってす、すごいって知ってるだろう!!」
 千佳の屈託のない表情と慌てる獅子谷の姿に、礼夢は思わず吹き出してしまう。
 ——ふふっ。獣人ってもっと怖いかと思ってたけど、おかしな人たちだな。
 獅央が振り返って「笑っては悪いですよ」と小さく囁く。
 礼夢はこくんと頷き、上級淫魔の施術を見守ったのだった。


       中途半端でごめんなさい。文字数と時間がっ!  2019.08.10 書き下ろし 四ノ宮慶
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