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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 2010年夏コミ新刊『Is there love there?〜そこに愛はあるか?〜』 予約特典SSペーパー

2010年8月発行のオリジナル同人誌、『Is there love there?〜そこに愛はあるか?〜』予約特典SSペーパーです。
『Is there love there?〜そこに愛はあるか?〜』は、後に加筆修正、『迷えるドクターに愛のご奉仕』と改題し、電子書籍としてミルククラウン様から配信していただきました。
同人誌版の表紙はほしの•しらどさんです。
表紙1_4

mayoeru_20170602193524ebd.jpg←画像クリックで配信元公式サイトへ。

では、前置きが長くなりましたが、番外編SSをお楽しみください。

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『それは愛に間違いないか?』



 付き合ってみると、宝田という男が思いのほか一途だということに千住は気がついた。
 あれほど取っ替え引っ替えに男女関係なく遊び歩いていた男が、千住とそういう関係になった途端、それらの関係を一切絶ってしまったというのだ。
 元々、相手の方も遊びと割り切って付き合っていたとはいえ、そうも簡単に複数の人間との関係を断ち切ることができるものなのかと千住は疑ったが、そんな疑念もすぐに解消されてしまった。
 相変わらず『よっちゃん』の営業時間は不規則で、午前中から開けていたと思えば、夜の九時には閉めてしまうという状況だったが、店を閉めている間に宝田が行く先は、必ず千住の部屋と決まっていたからだ。
 宝田は、千住が渡した記憶のない合鍵を使って(どうせ大家の榎本から強奪したに違いない)何時だろうがお構いなく千住の部屋に侵入する。そして、勝手知ったるとばかりにキッチンに立ち、千住のために朝食や夕食を作るのだ。
 千住がムッとした表情を浮かべていても気にならない様子で、自分の作った料理を千住が口に運ぶのを満足そうに眺めている。
 そうして、千住が食事を終えると、次は自分が腹を満たす番だとばかりに、千住の意思など関係なくセックスを求めてくる。
 仕事に疲れ、美味い食事の後はゆっくり二人でくつろぎたいと千住が思っていても、宝田にそんな千住の気持ちが通じる訳がなかった。
「先生……、アンタを喰いたい」
 そう宝田に間近で乞われてしまうと、どういう訳か千住は嫌と言えないのだ。
 彫りの深い精悍な顔に溢れんばかりの情欲を浮かべ、腹の底に響くような深く低い声で耳許に囁かれてしまうと、千住の身体はまるで蛇に睨まれた蛙よろしく、身動きできなくなってしまう。
 そんな千住の心の真相を熟知しているかのように、宝田の声や手足が千住の望むとおりに耳許に甘く囁き、華奢な背中を優しく撫で擦る。
 そうして今夜も、しっかりと味の染みた手羽大根で腹を満たし、心地良い満腹感に千住が溜息を吐いたところで、宝田がずいっとダイニングテーブル越しに身を乗り出してきた。
「先生……」
 この男は、意図して千住の名をセックスの最中にしか呼ばない。名を呼ばれることに不慣れな千住が、耳許に囁かれるだけで酷く感じてしまうと知っていて、わざとそうしていることを千住も理解していた。
「……イヤだ」
 宝田の男臭さを引き立たせている顎の髭が、千住の顎先にわずかに触れた瞬間、それは唇同士が触れるよりも先に千住の口から零れ落ちた。
「は?」
 思いもしなかった千住の拒絶の言葉に、宝田が切れ長の瞳を眇めて訝しむ。
「イヤだ、と言ったんだ」
「なんで?」
 しっかりと千住の右手を握り締めながら、宝田は不満をあらわに問い返す。まるで、千住の拒絶を責めるような眼差しに、思わず握られた手を振り払ってしまいそうになるのを、千住はぐっと堪えた。
「……確かに」
 怒りに声がかすかに震えるのを感じつつ、千住はできるだけゆっくりと宝田に告げる。
「あんたが俺のためにこうして料理を作ってくれることには、心から感謝している。店を閉めてまで来てくれてるんだから、俺だって何かしなくちゃいけないってことも分かってる。……けど」
 そこで一度言葉を区切って、千住は不機嫌そうに眉を顰めている宝田の顔を仰ぎ見た。宝田に握られたままの掌には、じっとりと汗が滲んでいる。
 これから告げようとしている言葉を聞いて、宝田が自分を嫌いになってしまったら……という想いが千住の胸を過った。
 それでも、まるで身体ばかりを求められているような気がして仕方がない自分の胸のうちを、この男に告げておくべきだと千住は思う。
 自分を奮い立たせるために、千住は息を大きく吸い込んで深呼吸をした。そして、つい逸らしてしまいそうになる視線をしっかりと宝田の揺るぎない瞳に向けて口を開く。
「俺は……他人とこういう関係になったのが……初めてと言っても差し支えないような男だから、あんたから見たらまるでガキの戯言のように聞こえるかもしれないが……」
 言葉を紡ぐのに比例するように、千住の心拍数は徐々に上昇していく。ダイニングは暑くもなく寒くもない丁度良い室温のはずなのに、千住は握り締めた掌ばかりでなく、額や背中にもじっとりと汗をかいていた。
「その……会えばセックス……っていうのじゃなく、……例えば、ゆっくり話をしたり……ただくっついているだけとか……そういう……あの……っ」
 言っているうちに、千住は自分がかなりうざいことを言っているのではないかと思い始めた。こんなつまらないことを言ってしまったら、本当に宝田に呆れられてしまうかもしれない。
「いやっ……だからといって、別にあんたとしたくないっていう訳じゃなくて……っ」
 慌ててそう付け加えた千住の手を、宝田の大きな掌がぎゅうっと力を込めて握り締めた。
「い……っ!」
 いきなり力一杯に握り締められて、千住は思わず顔を顰めて苦痛の声を漏らす。
 やはり怒らせてしまっただろうかと、思わず閉じてしまった瞼をそっと開けて目の前の男の顔を伺い見ると、宝田は何ともいえない締まりのない表情を浮かべて千住を見つめていた。
「……え?」
 訳が分からず、小さく問いかける千住に、宝田は相好を崩して両手で千住の手を握り直した。
「先生……っ!」
 心なし頬を赤く染めたように見える宝田は、更に身を乗り出して千住に顔を近づけた。
「なっ……なにっ?」
 反射的に背中を反り返らせた千住に向かって、宝田は妙なテンションで声を張り上げた。
「アンタ、めっさカワイイなぁっ!」
「は?」
 自分に向けておよそ発せられることなどないと思っていた言葉に、千住は目を瞬かせた。
 戸惑いを隠せずにいる千住に向かって、宝田はますます身を乗り出し、テーブルの上に膝を乗り上げて迫ってくる。
「ちょっ……、おいっ!」
 千住は必死に宝田の手から逃れようとするが、ぎっちりと握られた手はビクともしない。どうしようもないと思って椅子から立ち上がろうとするが、腰を浮かせたところでテーブルの上に膝立ちになった宝田の腕に抱き込まれてしまった。
「馬鹿野郎っ! は、はな……せっ」
 身を捩って逃れようとした千住の顎が、節高の指に攫われてしまう。
 あ……と思ったときには、もう唇を重ねられていた。
「んっ……むぅっ」
 せっかく勇気を振り絞って胸のうちを曝け出したと言うのに、これでは元の木阿弥だ。千住は逞しい腕の中で身を捩りながら、口惜しさと虚しさが綯い交ぜになった微妙な気持ちになっていた。
「カワイイ……智宏」
 何度も角度を変えては深さを増していく接吻に、千住の身体からゆっくりと力が抜けていく。こうして宝田の肌の熱を直に感じ、粘膜を触れ合わされてしまうと、千住の身体は本人の意志に反して快楽を追いかけようと駆け出してしまう。
「カワイイ……可愛いよ、先生」
 絶え間なく耳許に甘く囁かれ、千住は自分が何に対して異を唱えていたのかさえ朧げになり始めていた。
 そうして気付けば、いつの間にかリビングのソファに横たえられ、肌をあらわにされてしまっている。
「アンタの望むようにしてやるよ。……でも、その前に俺にもちゃんと餌を呉れてやってくれ」
 色香を最大限に匂い立たせながら、宝田が甘えたように言いつつ、千住の唇を舌でべろりと舐めた。
 それだけで、千住は腰の奥に甘い疼きを感じて肌を震わせてしまう。これではまるで、本当にセックスだけを求められているように思えてしまう。
「……でも、アンタだって、俺が欲しくて堪んねぇだろう?」
 宝田にばかり罪の意識を擦り付けようとする千住の心を察したかのように、宝田が鋭く指摘する。甘くゆるやかな時間が欲しいと思いながらも、千住が宝田とのセックスを心身ともに求めて止まないことを、この男は見抜いているのだ。
「……ああ」
 曖昧に揺れてばかりいる自分の心情を嘲るように、千住は自嘲の笑みを浮かべた。何をどう取り繕ったところで、自分はどうしようもないくらいにこの男に惚れてしまっているのだ。
「あんたが……欲しくて堪らない」
 千住の答えに、宝田が満足げに微笑む。
 そうだ、何を疑うことがある。これは確かに、愛に間違いがないのだ。


                   終わり





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