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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 冬コミ(C87)配布SSペーパー

『嵐の夜』ブログSSより「地獄の天使」SS


激しい風雨に、滅多に閉めることのない雨戸がガタガタと揺れている。
数分おきに蛍光灯の明かりが点滅するのを認めて、戸塚は面倒に思いながらも納戸に仕舞い切りにしている懐中電灯を取りに事務室を出た。
時刻は、深夜1時過ぎ。
こんな日でも、浪雪の仕事に休みはない。
台風のためにこの温泉地に隔離されてしまった常連客が、昨夜に引き続き予約を入れて来た。
横殴りの雨の中をタクシーで客の宿泊先まで出掛けていった男娼は、まだ帰ってこない。
階段下の納戸の奥から懐中電灯を見つけた瞬間、まるで舞台が暗転したかのように邸内が闇に包まれた。
「……まったく」
小さく溜息を吐いて、手にしたばかりの懐中電灯で足下を照らす。
この様子では、おそらくこの一帯の全戸で停電が起こっているだろう。
雨と風と、建物がギシギシと揺れる音を聞きながら、戸塚はゆっくりと事務室へ戻った。
懐中電灯を執務机の上に置き、スーツの胸ポケットから煙草を取り出し口に銜える。
そのとき、バタバタと慌ただしく階段を下りてくる音がして、ノックもなしに事務室のドアが開かれた。
「諒、停電だっ!」
暗闇の中でも、声の主がやたらとハイテンションなのが手に取るように分かって、戸塚はうっすらと苦笑を浮かべた。
「ああ、見れば分かる」
子供のような恋人の様子に、戸塚はあえて冷たく答えた。
「なんだよ、アンタ。こんなときでも妙に冷静だな」
いつもと変わりのない戸塚の様子に興醒めしたのか、恋人は懐中電灯の明かりの傍まで寄って来て小さく舌を打った。
「翔太郎、まだ戻ってこないのかよ」
「ああ、一度、延長の連絡は入ったんだがな。この荒れ模様じゃ、戻るに戻ってこれないんだろう」
「いいじゃん、宿泊で伝票切っちゃえば」
戯けるように言って、恋人は戸塚の腰掛けた腿の上に腰を下ろした。
「煙草、消せよ」
ゆらゆらと闇の中で白く立ちのぼる頼りない一筋を、恋人はフゥーッと息を吹きかけて掻き消す。
「まだ吸ったばかりだ」
「また後で吸えば良い」
言って、恋人の指が攫うように戸塚の唇から煙草を奪う。
それをクリスタルの灰皿に押し付けると、まるで代わりだとでも言うように、唇を重ねて来た。
「おい」
徐々に深くなっていく口付けの合間に、戸塚は不機嫌な声で告げる。
「なにを勝手に盛ってるんだ」
悪戯な手は戸塚のベルトを緩め、スラックスの前を寛げようと蠢いている。
「嵐の夜にすることなんて、ひとつしかないって決まってんだろ」
戸塚の唇をぺろりと舐めて、恋人が笑った。
頼りない明かりの中、闇に浮かび上がったその表情は酷く妖艶で……。
「嵐の夜じゃなくても、お前はしょっちゅう盛ってるがな」
蔑むように言い返すと、恋人は更に満足げに微笑んだ。
「アンタだって、すぐにその気になるくせに」
「……お前が拗ねると、後が大変だからな」
「言ってろ、馬鹿」
自らもチノパンの前を開いて腰を擦り付けながら、恋人がしっかりと唇を合わせてくる。それに応えながら、戸塚はそっと華奢な腰に手を回した。

嵐は、まだ治まる気配はない。
この嵐が過ぎ去るまで、しばらく恋人の体内で荒れ狂う嵐になるのも面白いと、戸塚はひとり胸の中で思った。


初出2009年10月8日
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