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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 J庭37*宝探し企画ペーパーSS

J*GARDEN 37*2014.10.19
四ノ宮慶*BLUE ROSE BLUES
宝探し企画参加限定SSペーパー
『FOOT FETISH』番外編
【お目付役は今日も大変】

「車停めて、適当にこの辺見回ってろ」
 後部席で自慢のエナメル靴を磨きながら若頭……じゃない、社長が言う。俺は無言でハンドルを左に切って、百千鳥北商店街のアーケードが見える大通りの路肩にゆっくりと車を停めた。
 夜になると結構肌寒くなってきたのもあるんだろう。百千鳥駅の北口にあたる大通りに人影はなく、車もときどき擦れ違うぐらいだ。
「今日は、なんですか?」
 革靴専用のクリームと肌理の細かい布をしっかりと箱にしまい込む姿をミラー越しに盗みて訊ねると、社長が少し不機嫌そうに眉を顰めた。
「お前だろ? 市木商会の連中がまたうろついてるっツッたのは?」
 誰もが認める男前に、眇めた双眸で上目遣いに睨まれて、怯まない野郎がいるなら是非、灰田組に入ってくれとお願いしたいところだ。
「ええ、まあ……はい」
   こりゃあ、アレだ。間違いなく、あの靴屋のトコだな。
 俺のこのテの勘はまず外れたことがない。
 先月、ウチの店子でもあるオーダーメイドの紳士靴店を訊ねた際、社長の目の色が変わったのを俺は見逃さなかった。
「この時間になると商店街も裏通りにある古い住宅地は人気がなくなる。怪しい奴がいないかしっかり見回ってこいよ」
 そう言うと、社長はドアを開けてするりと夜の闇の中へ消えていった。
 チャリ……ッ。
 ドアが閉じる瞬間、かすかに金属が触れ合うような音が聞こえて俺は勘ではなく確信を抱く。
「可哀想になぁ、あの靴屋の兄ちゃん」
 灰田組の姫澤に目をつけられて、無事でいた人間なんて見たことがない。
「ま、俺の知ったことじゃないけどね」
 おとなしそうな眼鏡の靴職人をぼんやりと思い浮かべて、俺は静かに車をスタートさせた。
 けれど、どうしても頬が緩んでしまう。
 あの人の  姫澤基という男を知る人間なら、彼に目をつけられるということがどういうことか、2通りの意見しか出さないだろう。
 ヤクザとはいえ、あんな完璧な男に愛されるなんて、幸せ者だ。
 多くの女やカタギの人間は、だいたい口を揃えてこう言うに違いない。
 でも、俺のような身内や、コッチ側の人間は違う。
   御愁傷様。アイツに愛でられるなんて、気の毒としか言い様がない。
「まあ、捉え方によっちゃ、一途……とも言えなくもないか」
 ククッ……と、ハンドルを握ったまま肩を竦める。
「どうしようもないいじめっ子気質だからなぁ、あの人。気に入った相手はとことんまで嬲って虐めるんだから……」
 目をつけられた相手は堪ったモンじゃないだろう。
「おまけに、抜かずの五発六発当たり前  ってんだから、どこの中坊捜したってそんなエロ魔人いやしねぇっての」
 それこそオレは、中坊のときに社長に拾われた。以来十年近くあの人を一番近くで見てきたんだから、それこそあの人のエグさは誰より知っているつもりだ。
 もし、自分の家族や親戚、友人が社長のターゲットになったと知ったら、それこそ全力で逃げろとアドバイスするだろう。
 男も女も関係ない。美味そうだと思ったら、襲いかかる。
 そうして情念と精液と執着、劣情をこれでもかと叩きつけるのだ。
 姫澤基に惚れる男も女、気持ちは分かる。俺だってあの人に惚れたんだ。
 だから灰田組の構成員になった。
 けど、あの人に本気で目をつけられた相手がどうなったかを知っている身としては、あの靴屋の兄ちゃんに同情するほかなかった。
「社長の相手がフツーにできるなんて、余程の馬鹿か  」
 点滅信号の手前でスピードを落として、また肩を竦める。
「余程の、変態だ」
 さて、どこの駐車場へ入れようかと考えながら、眼鏡の野暮ったい顔を思い出す。ちらっと見ただけだが、ごくごくフツーのカタギの人間だった。
「案外、素質あったりなんかして……っ」
 ククッと笑って、アクセルを踏み込む。同時に、溜息を吐いた。
   あ〜あ、今夜は、お迎えコールまで何時間かかることやら……。

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