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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 J庭41配布ペーパーSS

『冬の空』「虹色のキャンバス*第3章」より、関川の独白
 冬になると、こんな都会の空気でも、澄んでくるように思えるから不思議だ。
 窓から見える東京タワーが、いつもよりも近くに感じられ、街路樹が寒風に細い枝を震わせるのを見ると、四季のないように感じる都会の片隅でも、冬の到来を自覚する。
 そうやって肌寒い朝のひとときを過ごしつつ、あの天の邪鬼は寒さが苦手だったと思い起こしたりするのは、そう悪い気分じゃなかった。
 真冬でも裸で眠る癖のある彼が、またこの冬にも風邪を繰り返しひくのではないかと、心配に思う。
 せめてこの腕に抱いて眠ってやれたら、きっとそんなこともなく春を迎えられるだろうに。
 離れて暮らすことが辛いとは思わないけれど、ふとその温もりを思い出すと、指先のささくれを無理に引っ張ったときのような、チリリとした痛みに襲われる。
 毎日届くメールやラインも、ときおり入る無言電話も、何もかもが愛しくて仕方がない。
 自分がこんなにも情けない……甘ったるい感情を持つようになるなんて、彼に出会って恋をするまでは、考えたこともなかった。
 過去の恋愛がすべて、本当の恋ではなかったのだと思い知る。
 なんとなくつけていたテレビには、今日の予想天気図。大陸から広く張り出した高気圧のせいで、関東一円は今日も晴れ。
 きっと目の前の東京タワーの展望台からは、白く雪を被った富士山が、きれいに見えていることだろう。
 学生の身分にありながら、まだ駆け出しとはいえ、絵本画家として仕事をしている彼は、毎日を忙しく過ごしているらしい。
 兄のもとに預けるような形だから心配なんてないはずなのに、毎日どうしているだろうかと、どうにも気になってしまう。
 人に感情を隠すのが上手な彼は、泣くときは隠れて泣くのだ。
 人にかしづいたことのない彼だから、仕事絡みで大人に上からものを言われたら、きっと理不尽な怒りに駆られて、その後に酷く落ち込むに違いない。
 兄にそういった部分までフォローしてもらえるかどうか分からなくて、つい、意味もなく連絡を取りたくなるが、そういうときですら、無意味な自尊心が邪魔をしてしまう。
 彼が泣きついてきたら、そっと話を聞いてやろう。
 本当は気になったときすぐに駆けつけて、まだ子供っぽいところのある薄っぺらい身体をかき抱いてやれたらいいのに  
 彼に降りかかった災難や、そのせいで胸に生まれてしまう澱んだ感情なんてすべて忘れさせてやれるほどに、激しく抱いてやりたい。
 そう、思うのに    
 袖を通したスーツの、ひんやりとした肌触りに気を引き締められる。
 甘ったれるな……と、見透かされているような気がした。
 苦笑しつつ、煙草に手を伸ばす。
 今日のスケジュールを頭に思い浮かべながら、頭の中にムクムクと湧き出した妄想を閉じ込める。
 そろそろ、朝一番のメッセージが届く頃。
 寝ぼけた頭で打った文章は、いつもどこか間違っている。誤変換があったり、うち損ねが常に複数。
 咥えた煙草の先からゆるりと立ちのぼる煙を目で追い、その視線の先にある携帯電話に手を伸ばした。
 窓の向こう。
 澄み渡った冬の青空に浮かぶ赤い鉄塔に、慣れない手付きで携帯のカメラを向ける。
 パシャリと、乾いたシャッター音が響く。
 その瞬間、煙草の灰がポトリと落ちて、慌てて灰皿を引き寄せた。
 液晶画面には、窓枠よりもさらに小さく切り取られた、冬の景色。
 そうして、慣れない機能を屈指して、彼にこちらからモーニングメッセージを送る。
 たまには、こんな朝があったっていいだろう?
 いつも彼にばかり、驚かされるのは、少し腹が立つのだ。
 気の利いた言葉なんて添えることはできないけれど、今、自分が見ている同じ朝の景色を届けられる。
 そうして、この写真を見て、同じ空の下に息づいているのだと、彼が気付いてくれれば、とても満ち足りた気持ちで、今日一日を過ごすことができるだろう……。
                         初出:ブログSS(2007.11.7)
             end 四ノ宮 慶 2016.10.2 初出に加筆修正して掲載
 
※旧ブログの倉庫には関川視点のお話が結構眠ってる……。『虹シリーズ』は本当に人気があったお話で、読者さんは牧野先輩と一樹がお気に入りという方が多かったけれど、私はとにかく関川が……線目が愛しくて仕方がありませんでした。はい。
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