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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 J庭38配布ペーパーSS

『微糖なアイツ』※「地獄の天使」番外編

 東京の仕事から戻ってきたアイツに、無理矢理引きずり込まれたベッドの中で、散々喘がされ叫ばされ泣かされた揚句に意識を失ったのは、3時間ぐらい前。
 薄明かりの中で目を覚ますと、カチカチとキーボードを打つ音が聞こえた。
 俺の頭のすぐ横。大きな枕を背中に挟んで、バスローブに身を包んだ長身が、膝の上でノートパソコンに向かい合っている。
 踊るように跳ねてキーを打つ指先を、俺は綺麗だなと思って見つめていた。
 肩ごしに見上げた横顔。咥えた煙草からゆるゆると煙が立ち昇っている。
        * * * * * * *
 新幹線の中から貰った電話で、アイツの私室で待つように言われ、俺は自分の暮らすマンションの最上階へ向かった。
 鍵は、管理人の茨木婦人がその都度開けてくれる。
 アイツが俺とのことをどんなふうにこの婦人に伝えているのか気になったけれど、こっちから確かめるのも悔しい気がしてそのままにしていた。
 滅多にアイツが使わない最上階の部屋は、恐ろしいほど豪華で、そして機能的だ。決して華美ではなく、機能美に特化した間取りにシンプルなデザインのインテリアを揃えているだけなのだが、どうみたって一般庶民が揃えられる調度品じゃないのは見れば分かった。
 アイツの趣味がそのまま反映された部屋は、俺の趣味にもある程度適っていて、文句はない。
ただ俺としては、もうちょっと遊び心や色味があってもいいとは思うけど。
 寝室の大きなベッドに転がって、俺はおとなしくアイツの帰りを待っていた。2日間の出張の仕事の内容なんて知らないけれど、疲れて帰ってくるだろうことは予想できる。
 アイツの帰宅時間を見計らって茨木婦人に簡単な料理を頼み、そしてバスタブのタイマーをセットした。我ながら、なんて甲斐甲斐しいんだろうと思う。
 それなのに、アイツは帰って来るなりキスもしないで俺の腕を取り、そのままベッドへgoing my wayだ。不意を突かれたせいもあって、俺は抵抗虚しく組敷かれ、何度も激しく突き上げられた。まあ、気持ち良かったし、最終的にはそういう目的もあったから、別に嫌ではなかったけれど……。
        * * * * * * *
 で、今に至る訳だけど。
 俺が目覚めたことに気付いていないのか、アイツは相変わらず真剣な眼差しでモニターを見つめていた。やがてふと手を止め、灰が落ちそうになった煙草を傍らの灰皿へと押しつける。そして、手隙になった手で空を切ったかと思うと、その大きな掌を俺の頭にそっと乗せた。
 視線は液晶画面に据えたまま、左手で器用に画面をスクロールさせながら、アイツは俺の髪




に指を絡めて遊んでいる。頬や額に触れる指先から、煙草の匂いが微かに漂ってきた。
 触れられる心地よさに、うっとりと瞼を閉じる。
 今までにも俺が眠っている間、コイツがこんなふうに触れていたのかと思うと、それだけで胸がきゅうと苦しくなった。
 普段は、氷のように冷たくて、優しい言葉なんてひとつも掛けてはくれないくせに……。
 きっと、俺が知らないところで、コイツは俺を甘やかしているんだろう。
 不器用で、でも、この男らしいと、俺はクッと息を詰めて笑った。
 ピクッと震えた肩に気付いたのか、アイツは慌てて手を引っ込めると、不機嫌そうに首を捻って、俺の顔を見下ろしてきた。
「起きたか?」
 低く張りのある声に、俺は小さく頷いてみせる。
「腹減った。っとに、アンタ無茶するんだもん。せっかくの料理が台無しじゃねぇか」
 茨木婦人が用意してくれた料理は、ラップされたままダイニングテーブルの上で冷たくなっている。
「レンジで温めれば、全然イケるって。シャワー浴びてくるから、食っちまおうぜ?」
 気怠い身体を起こしながら言うと、アイツは無言でノートパソコンの電源を落とした。
「食いたければ、お前が食え。俺はいい」
 愛想なく言い捨てられて、ムッとする。
「コーヒーだけでも付き合えよ。アンタに無理矢理付き合わされて、超絶腹ペコでクタクタで死にそうなんだ。テーブルの向かいに座るくらいしても、バチは当たらないんじゃね?」
 ベッドを降りて真っ裸で仁王立ちになって告げると、アイツが少し困ったように眉を寄せた。
「出張お疲れさん。アンタと飯食いたくて言われたとおりおとなしく待ってたんだ。忠犬にご褒美をくれたっていいだろう?」
 言い放ってくるりと背を向け、バスルームへ向かう。
 あれくらい恩着せがましく言ってやらないと、アイツは重い腰を上げてはくれない。
 身勝手で、自分の感情さえ素直に出せない、不器用で狡い男なのだ。
 でも、そんなアイツがときおり見せる甘さに、俺は無様に酔う。
 深くどろどろに、酔い痴れ、溺れる。
 その微かな甘さと、普段決して表には出さない本当のアイツの熱を、俺は知っているから。
 熱いシャワーでセックスの痕を洗い流しながら、俺はさっきまで触れていたアイツの指先を思い起こし、ひとり小さく笑みを浮かべた。 (初出 2007年7月17日 ブログSS)

                       end 四ノ宮 慶 2015.03.08
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