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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 2011冬コミ(C81)配布ペーパーSS

コミックマーケット81で配布したペーパーのSSです。少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。


『祝福の日』COMIC MARKET 81『玩具の恋』番外編SS


 燃えるような夕焼けを背にして、圭吾は息を切らしながら早足で先を急ぐ。ダッフルコートにマフラーをしっかり装備した口許から、白い息が絶えず漏れた。
 草加と付き合うようになって、2年が過ぎていた。草加から合鍵を渡されたのは、今年の圭吾の誕生日の夜のことだった。
 草加のマンションで寸暇を惜しむように抱き合った後、情交の余韻に浸っていた圭吾に、草加が無言で鍵を放り投げた。そこに繊細な細工の施された皮のキーホルダーを認め、圭吾は草加の不器用な優しさに感動したのを、今も鮮明に思い出すことができる。
 スーツのポケットの中にキーホルダーの重さを確かめると、圭吾の唇は自然に綻んだ。例年よりも随分と低いという今日の寒さも、一瞬で忘れてしまう。
 冬という季節があまり好きではなかった圭吾だが、草加の誕生日を知って以来、この季節が大好きになった。そして12月は圭吾にとって、クリスマスよりも草加の誕生日を待ち遠しく思う時期になった。草加が12月生まれだと知ったとき、圭吾はなるほどと思ったのを記憶している。冷たい双眸はまさしく冬という季節そのものだし、凛とした佇まいや物静かなところも冬っぽい。そして、ただ冷たいだけじゃなく、ふとしたときにほんわかとしたぬくもりを与えてくれるところも、冬という季節がぴったり似合う。
 圭吾の勝手なイメージだが、真っ白な深い雪の世界に、ほんのりと灯ったオレンジ色の暖炉の色  それが草加のイメージだ。
 夏休みから今日まで、圭吾はほぼ毎日バイトに勤しんで過ごした。それもこれも、今日という日のため、草加に少しでも喜んでもらえるようなプレゼントを準備するためだった。
 自分等と違ってしっかりした大人の恋人。これといった趣味などもたない様子の草加に、どんなプレゼントを贈れば喜んでくれるのか、圭吾はもう半年も前から思い悩み続けていた。
 厳しかったという祖父の影響なのか、草加はどんなものでも大切に扱うので物持ちがよい。趣味も派手なものを好まず、見た目よりも機能性を重視する。物欲というものにも縁がない様子で、身に着けるものといえば腕時計ぐらいだ。香水といったものも使わず、草加の体臭は煙草の匂いと、ほんのり香る整髪料の匂いで、それは決して不快なものではなかった。
 考えれば考えるほど、圭吾は草加に何を贈ればいいのか分からなくなった。
 ライターは祖父の形見のオイルライター以外は考えられないし、普段使うものといえばハンカチやネクタイなど、当たり前過ぎるものになってしまう。長年愛用しているらしい使い古された皮の手帳も、きっと草加はまだ取り替える気にはならないだろう。
 そうやって思い悩んでいるうちに、季節は師走を迎えていた。圭吾の焦る気持ちなど、草加は気付かない。いつもと変わらない態度で、時折意表を突くように圭吾を優しく包み込む。
 だが、圭吾の焦燥と悩みを打消す瞬間が、突然やってきた。
 ほんの数日前の、週末の夜。12月に入ってからずっと残業や出張続きの草加からメールをもらい、圭吾は十数日ぶりに恋人との逢瀬を楽しんだ。最寄り駅で待ち合わせをし、2人でバスに乗り込んだとき、圭吾はふと、草加の革の手袋に目がいった。やわらかそうな焦げ茶色した手袋は随分使い込まれ、あちこち皮が擦り切れている。吊革を掴んだ圭吾の大好きな手を包む、古革の手袋は草加らしいシンプルなデザインで愛着も感じられた。しかし、傍目にも随分と傷んでいるのを認め、圭吾は草加の誕生日プレゼントはこれしかないと思ったのだった。
 このときのためにとバイトで貯めた軍資金は十分にある。今草加が使っているものと似たデザインで上質な手袋を、圭吾はこの数日、必死にあちこちを探しまわった。色合いや皮の質感、草加が両手に着けた姿を想像しては、何十もの手袋を手にしては却下した。
 そうして、今日。草加の誕生日当日になって、圭吾はやっと納得できる手袋を見つけたのだ。
 急いでプレゼント用にラッピングしてもらい、草加のマンションへと急いだ。部屋を訪ねることを知らせようとは思わなかった。今日もきっと仕事で忙しいだろうと思ったからだ。草加の迷惑になるようなことだけは、もう2度としたくないという強い想いが圭吾にはある。恋しいと慕うあまり、身勝手な行動をとった過去の自分を今はとても恥ずかしく思っていた。
 圭吾の誕生日にくれた鍵で、恋人の部屋に入る。草加は何も言わなかったが、好きなときに来ていいと、許してくれたのだと圭吾は理解していた。
 しんと静まり返った部屋。書斎の水槽に暮らすカメのサクラに小声で挨拶して、圭吾はきちんと片付けられた机にプレゼントを置いた。
 疲れて帰ってきた草加が、コレを見つけて少しでも嬉しいと感じてくれたら、それだけで圭吾は充分だと思う。まだ子供に毛が生えた程度の自分には、年上の恋人を包んだり支えたりなんてできないから、せめて、いつも心から想っているという気持ちだけでも伝えたい。いつかきっと、隣を並んで歩いていけるよう、恥ずかしくない大人になるからと、圭吾はプレゼントを見つめながら誓った。
「誕生日……おめでとう、草加さん」
 溢れてどうしようもない愛しさを込めて、圭吾はそっと呟いた。生まれてきてくれて、ありがとう。あなたと出会えて、本当に嬉しく思う。どうかこれからも、傍にいさせて欲しい。
 そのときだった。玄関のドアが開く気配がして、するはずのない声が聞こえた。
「……おい、来ているのか?」
 凛として、甘くて優しい、冬の空気が似合う声。偶然の出来事に、圭吾の全身が戦慄く。
「う……そっ?」
 次の瞬間、圭吾は子供みたいに書斎を飛び出していた。
 祝福の日。少し気の早いサンタクロースは、不器用な恋人たちに粋なプレゼントを贈ってくれたようだった  。                     終わり。


初出 2011/12/30
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