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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶のブログです。新作情報、同人活動等をお知らせしています。

『虹色のキャンバス』より

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旧サイト掲載作『虹色のキャンバス』より


『今日は休みなさい』〜Takumi〜

朝起きたら、なんか知らん、身体がだるかった。
日本画の講議があって、大学の後にバイトも入ってたから、のそのそ起き出して台所に顔出したら、オカンが俺の顔を見るなりびっくりしたような顔をする。
「アンタ、調子悪いんちゃうの?」
味噌汁を温め直しながら、オカンが俺の顔を見上げる。
「んー、なんか身体だるいけど、大学行かなあかんし」
いつもの自分の指定席に腰掛けて答えると、オカンが溜息を吐きながら俺のデコに手を当てた。
「アカン、熱あるわ」
はっきりそう言って、オカンがコンロの火を止めて冷蔵庫から冷却パッドを取り出し、俺に差し出す。
「支度しなさい、病院行こ。今日は学校、休みなさい」
俺より20センチも小さな身体のオカンが、きつい口調で言うんを、俺はだんだん酷くなってくる頭痛に顔を顰めながら聞いてた。
どないして判断するんか分からんけど、俺がしょうもない病気をしたとき、オカンは普段は放っておく。
けど、ちょっとでもアカンって思うたら、大袈裟やなってくらいに世話を焼いてくれる。
「ほら、すぐ支度しなさい」
引き出しから保険証を取り出してエプロンを外したオカンは、慌てて化粧を確認しに洗面所へ駆け込んだ。
「巧ぃ、車の運転はできるか? しんどかったらタクシー呼ばなあかんなぁ」
オカン、それは無理。
吐き気もして来た。
頭、痛い。割れそうや。
身体が重い。今すぐ、横になりたい。
「……う」
自覚してしまうともうどうにもならへんかった。
転んだ瞬間は痛くないのに、血を見ると途端に泣き出してしまうような、そんな感じ。
「な……? 今日は休みなさい」
少しだけ口紅が濃くなった口許に、なんでかホッとする。
「無理してもええことないから、な?」
オカンの心配そうな顔を見上げて、俺は苦笑いを浮かべてコクンと頷いた。


『鬼のカクラン?』〜Kazuki〜

牧野先輩から昼過ぎにメールが来て、病院行ったって言うからびっくりした。
事故か怪我かと思ったら、夏風邪ひいたらしい。
大したことないって聞いて、ちょっとだけホッとする。
先輩は昔、病気をして長いこと入院してはったらしいけど、その後は病気らしい病気もしてないって、自分で自慢してた。
見るからに健康そうやし、俺が知ってる限りでも先輩が風邪をひいたりしたっていう話は聞いたことがあれへんかった。
こういうの、鬼のカクランって言うんかな。
月末からずっと高校展の仕上げで部活ばっかりやったし、先輩もずっとバイトとかで忙しかったみたいで、最近まともに会って話してへんかったから、今日あたり学校に顔出しはるかと思って、ちょっと期待しててんけど……。
今日も外は雨模様。
じっとりとして、制服のシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。
……先輩、大丈夫かなぁ。
部活終わったら、ガリガリ君買ってお見舞いに行こうって、こっそり思った。
雨でチャリンコ漕ぐの面倒臭いけど、合羽着て行くから多分大丈夫。
いっつもびっくりさせられるんは俺ばっかりやから、今日は俺が先輩をびっくりさせたるねん。


<初出*2006.7.18>
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