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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 J*GARDEN31配布ペーパーSS

2011年10月9日のJガーデンで配布したペーパーのSSです。当日会場に来られなかった方や、渡せなかった方々に、楽しんで頂けたら嬉しいです。


J*GARDEN 31『玩具の恋』番外編SS
※本編の秋頃の設定です。


 眼鏡が似合うな  
 圭吾は出会った頃から、草加のことをそんなふうに思っている。
「草加さん」
 ある週末の夜。久し振りに呼び出され、散々喘がされ、啼かされ、イかされた後、圭吾は事後の気怠さにベッドに横たわったまま、煙草をふかす恋しい人の背中に呼びかけた。
「……なんだ」
 ゆっくりと紫煙を吐き出して、草加はわずかに振り向いた。窓から差し込む夕焼けのオレンジ色の光が眼鏡のレンズに反射して、圭吾は思わず眼を眇める。
「もうずっと、眼鏡なんですか?」
「そんなことを聞いて、どうする」
 圭吾の素朴な疑問は、呆気無く冷たい声に却下されてしまう。
「……いえ、別に。ちょっと気になっただけで……」
 予想できたはずの草加の反応に、圭吾は落ち込む。多少、会話が続くようになったといっても、草加は決して圭吾をそのテリトリーに入れてくれない。
 重い沈黙に、圭吾はベッドの中でそっと背中を丸めた。
「高校に入ってからだ。本ばかり読んでいたからな」
 室内に煙草の匂いが充満した頃、草加がおもむろに口を開いた。
「え  
 予想外のことに、圭吾は咄嗟に返事をすることもできず、ただ驚きに瞠目するばかり。
 逞しい背中を茫然と見やり、肩甲骨のあたりにうっすら浮かぶ引っ掻き傷に目をとめる。それは、先ほどまでの激しい情事の際に、圭吾が意図せず付けてしまった爪痕だ。
「お前は、随分と目がよさそうだ」
 草加が紫煙を吐き出しながら言う。
「……どうして、ですか?」
 まさか草加が自分の身体以外に興味を持つなんて思ってもおらず、圭吾はますます驚きに困惑する。
「やたら大きいからな。お前の目は」
   あ。
 そう言った草加の口許が、うっすらと笑みを浮かべているようで、圭吾はハッとなった。
 いつものホテル。高層階のツインルーム。大きな窓から差し込む夕陽の光が、草加の成熟した大人の身体を黄金色に染めている。
 恋しくて堪らない男の身体にうっとりとすると同時に、圭吾は氷のように冷たい草加が、ほんの一瞬でも笑ったように見えたことがどうしようもなく嬉しかった。
「近眼と乱視だ。コンタクトは性に合わない」
 こんなに饒舌に自分のこと話す草加を、圭吾は見たことがなかった。
 口を開けば辛辣で容赦のない言葉ばかりで、圭吾はときどき自分は筋金入りのマゾなんじゃないかと思うほどだ。
「草加さんは、眼鏡の方が……似合うと思うけどな」
 心の中で呟いたはずの言葉が、ぽろりと唇から零れて落ちた。
「……っ」
 すると、不意に草加が振り返って、訝しむような視線を圭吾に注ぐ。レンズ越しの冷ややかで鋭い視線に、圭吾は思わず肩を竦めた。
「あ、ごめ……っ」
 余計なことを言ってしまった。
 せっかく上機嫌だった草加を、自分のせいで怒らせてしまったかもしれない。
 激しい後悔が圭吾を襲う。
「構わん。そんなことを言うのは、お前ぐらいだ」
 ぶっきらぼうに吐き捨てると、草加は煙草を灰皿に押し付けて揉み消した。そしてすっくと立ち上がると、そのままバスルームへ向かう。
 圭吾はただ静かに、草加の背中を見送った。大きな背中に残した爪痕が、何故かいつまでも瞳の奥に残った。
「怒って……かいのかな?」
 いつものように舌打ちされるか、罵声を浴びせられるかと覚悟したのだが、草加は苛立った様子もほとんど見せなかった。
 圭吾は違和感を拭えずにいたが、それでも、ま草加の新たな一面を垣間見れたことが嬉しい。
 しばらくすると、バスルームからシャワーの音が聞こえてきた。
 そこで、圭吾はふと、新たな疑問を思いつく。
 自分は眼鏡をかけていないから分からないが、果たして風呂に入るとき、眼鏡は外すものなのだろうか    
「濡れるから、やっぱり外すよなぁ」
 ギシリとベッドを軋ませて寝返りを打ちながら、圭吾は独りごちた。
 いつか、そんなところも知ることができたらいいな  そんなふうに夢を膨らませる。
 まさか草加、濡れようが泡がつこうが構いもせず、ふつうに眼鏡をかけてシャワーを浴びているなんて、圭吾は想像もしていなかった。
 そんな草加の姿を圭吾が知るのは、まだもう少し先の話    
                        end 四ノ宮 慶 2011.10.9
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