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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 永遠の櫻*J庭30ポスターSS

2011年6月26日のJ*GARDEN30で『帰っちゃうのポスター』企画用に書いたSSです。

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『永遠の櫻』(『玩具の恋』番外編SS)

 恋をして出会った日のことを、圭吾は今日までほんの一瞬でも忘れたことなどない。
 友人にも、母親に打ち明けられない悩みを胸に抱え、それでも誰かと触れ合いたいと想い焦がれた幼かったあの頃。
 あの日、あの懐かしいバーに行かなければ、きっと擦れ違ってもお互いを気に留めることもなかっただろう。
 出会いは確かに、偶然だった。けれど、今はあれこそが運命だったのではないかと圭吾には思える。
 少し大人げなくそう思ってしまうのは、もうお互いにそれなりの人生を生きてきたからかもしれない。
 決して、世間の誰からも祝福されるような二人ではなかった。互いの家族の間で悩み、自棄になってしまいたい時期もあった。
 苦労と呼ぶには辛過ぎる経験もした。
 ふつうの男女が愛し合い、未来を語るようにはいかないと、ともに生きると決めた瞬間から覚悟していたつもりだった。
 それでも、まっすぐに歩んでこれたのは、必ず一歩先を歩く愛しい人がいてくれたからだ。
 無口で、優しい言葉のひとつ口にするのにも、様々な感情にぐるぐると頭を悩ませる不器用な人。
 あの人が自分よりも幼かった頃に経験した辛さを思えば、自分はどんなにか恵まれていることだろうと圭吾は何度も思った。
 過去に背負った疵があるからこそ、臆病で不器用な恋人は、誰よりも愛することに真摯だ。
「ああ、やっと起きた?」
 中古の一軒家を二人で購入したのは、一昨年の春。庭に植えられた桜の古木と、それを臨む縁側が購入の決め手となった。
「……年寄りだからといって、誰でも早起きする訳じゃない」
「早起きって言うほどの時間じゃないですよ。ほら、桜が……」
 小さく「よ……っと」と声を出して言いながら隣に腰を下ろす人を、圭吾は庭の桜へと視線を促しながら横目に見つめる。
 随分と、皺が増えた。白髪が多くなっている。理知的な容貌は出会った頃よりも深みを増し、一見すると頑固爺そのものだ。近所の子供たちから畏れられていることを、この人はどれくらい理解しているのだろうかと、圭吾は眼鏡のブリッジをくいっと押し上げるのを笑みをたたえながら見つめた。
「ああ、満開だな」
 雨に打たれることなく、満開の時期を無事に迎えた庭の桜を、二人並んで静かに見上げる。
 縁側に腰掛け、何を語る訳でもなく、ただ静かに二人で眺めるのだ。
 春の空。
 淡いブルーの空に、薄紅の満開の桜はよく映える。
「圭吾」
「うん」
 それ以上の言葉は、なにもいらない。
 そっと大きな掌が、圭吾の手を手繰り寄せ、握る。
 この手を、どれほどまでに欲しいと願ったことだろう。
 この手に初めて触れた夜を、どんなにか大切に思ってきたことだろう。
 できることならずっと……永遠なんて我侭は言わない。
 二人を死が別かつその瞬間まで、こうして大きな掌のぬくもりを感じていたい。
 はらりと風が吹き、桜の花弁の一片が、そっと二人が握った手に舞い降りた。



記念ポスターなのに、『J*GARDEN 30』とか日付とかを一切入れていないこと気付き、慌てて裏にサインとメッセージを書いたのでした……。

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