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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 芝生の上で ~和也と将吾~

天気予報は雨が降るような事を言っていたけど、結局昼頃にぽつぽつ降っただけで、思っていたよりは快適に一日を過ごせた。

半ば無理矢理に引っ張って来られた市のフットサル大会。
和也が中心になって作ったチームには、何故か大塚の姿もあって、俺は他人事ながら卑怯なチームだな、と思った。

市営グランドは昨年綺麗に整備されて、グリーンに輝く芝生で覆われている。
そこに3面のフットサルコートをとって、地区対抗のトーナメント戦が行なわれた。
たかが地方のフットサル大会にしては、参加チームも観戦者も俺の予想を遥かにこえる大人数で、真ん中のコートの脇にレジャーシートを敷いて荷物番を任された俺は、こっそり腹の中で感心したんだ。

和也が最初に俺に声をかけたのは2ヵ月前。
当然、俺が頷く訳もなく、結局和也は大学のチームメイトと近所の友人を説き伏せて参加を果たした。
どうして和也がそこまでして参加したいとこだわったのか、このグランドに来てはじめてその理由を思い知る。

なんと、優勝チームには次期のセリエA観戦ツア−チケットが送られると言うのだ。
そりゃあもう、俺も吃驚した。

たかが地方都市のフットサル大会の優勝商品にしては、かなりのモンだと思う。
ヨーロッパサッカーにハマっている和也が、意地になって参加したがるのにも頷けた。
まだまだ親の脛かじりの情けない身分の俺たち。
和也はサッカーに明け暮れて、バイトだってした事がないから、小遣いだってそんなに貯えちゃいないだろう。
そう簡単に、本場までサッカー観戦になんかいける訳がない。

「そっか、……そういう事かよ、和也」

クーラーボックスにぎちぎちに氷を詰め込んでスポーツドリンクをひやしてある、その上に腰掛けて、俺は大塚と軽くボールの奪い合いをしている和也を見つめた。

「なんだよ……、言ってくれリゃ、俺だってさ……」

勿論、試合になんか、出ない。
もうまともにボールを蹴られる自信がない。
ボールもゴールも敵さえも目に入らなくて、和也ばっかり追っかけてしまうに決まってる。

「泡銭なら、持ってんのにさ」

他人には言えないバイトをして稼いだ金が、手付かずで銀行に眠ってる。
理由もなく、何も告げずに差し出したって、和也が絶対に受け取らないのは分かってた。

一緒に行こうぜ……なんて言えたら、どんなに楽しいだろう。

「ま、言える訳ねぇけどさ」

どんより曇り空から時々、小さな雨粒が間違って落ちてくる。
傘なんて必要ない、そんな程度の雨。

風も少しあって、本当に気持ち良い。

久々の芝生の上で、俺はぼんやりと和也を見つめる。
まるで、あの頃みたいに。

ピーーッ!

高らかにホイッスルが鳴って、和也がハッと振り返る。
「将吾!」
何も知らない無垢な笑顔で、俺に手を振る。
「さっさと行けよ、馬鹿!」

お前のプレーを見るの、本当は凄く楽しみにしていた。
途中で堪らなくなったら、こっそりトイレに逃げ込もう。
そんな小さな覚悟を持って、和也の背を見送った。

そんな、芝生の上。



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