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この手の中の恋の一片を

BL作家*四ノ宮慶の商業活動等をお知らせするブログです。

 冷たい指先

デビュー作『乾いた肌にお前の愛を』より



 数ヶ月ぶりに抱き合って迎えた朝、和也はひやりとした感触に目を覚ました。
 成人した男二人が抱き合って眠るには窮屈過ぎるシングルベッドの中、臑やふくらはぎに触れる冷たい感覚に首をひねる。
「……つめて」
 小さく呟いて、腕の中に抱いたままの幼馴染みの顔を覗き込んだ。
 情事の最中からは想像もできないような、あどけない寝顔がそこにあった。
 お互い素裸で抱き合って眠ったのは、もう明け方近くになってからだったろうか。
 もぞもぞと布団の中で足を動かして、冷たさの原因である幼馴染みの足をそっとずらす。
「う……、ん」
 絡ませていた足を解かれたのが気に食わないのか、安らかだった寝顔の眉間に深く醜い皺が刻まれた。
「将吾、お前の足、冷たい」
 きっとその耳には届いていないだろうが、和也は口元にあった形の良い耳にそう囁いた。
 腕や胸は和也よりも暖かく感じるのに、しがみつく掌や指先、足の爪先は驚く程冷たい。
「アレのときは、どこもかしも火傷しそうなのにな」
 激しく濃密だった情事を反芻するように思い起こして、和也は頬を弛ませた。
 淫らで可愛らしい幼馴染みは、和也の恋人でもある。
 離れて暮らすようになって数年が経っても、和也の将吾への思いは変わらない。どころか、ますます大きくなるばかりだ。
 それはきっと、再び規則的な寝息を立て始めた将吾も同じだろう。
  ベッドサイドの小さな目覚まし時計に目をやると、時刻は昼前。
 将吾の両親は、昨日から旅行中だ。幼馴染みの二人が久々の再会に夜更かしして、朝寝坊したからと言って部屋に起こしにくるなんてことも、警戒しなくていい。
「もうちょっと、寝かしといてやるか」
 自身も大きな欠伸をひとつしながら、和也は布団を顔の近くまで引き上げた。そして、解いたばかりの足を、将吾の冷たい爪先へ擦り寄せる。
「ほんと。冷たいな」
 呆れたように笑って、自分の爪先で冷たい爪先を挟み込んだ。
 少しでも、暖かくなってくれればいい。
 栗色の髪に鼻を擦りつけながら抱き締めると、健やかな寝顔がふうわりと笑ったような気がした。


初出が2009年の秋のJ庭の直前。今読み返すと、たったこれだけの文章にも稚拙な部分があって身悶えしますな。
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